ライトノベルというと、大体において想像するのは、ラブラブハッピーな萌え系ラブコメディーか、萌え要素含むファンタジーもの、といったところでしょう。
最近ではかなり細分化されて哲学的なもの、ダークなものなどさまざまなバリエーションが出てきていますが、そもそもの基本ラインが「キャラクター性重視でイラストがつくことを前提とした、読みやすいエンタテインメント小説」ですから、おのずと主流は上記のようなイメージの作品になります。
そんな前提でもって「されど罪人は竜と踊る」(浅井ラボ著)に臨むと、「え、これライトノベル?」と、全力で概念を覆されるでしょう。ラノベにおいて、「暗黒ライトノベルの元祖」として知られる、振り切った立ち位置にある作品です。
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されど罪人は竜と踊る 基本的な作品概要
内容はというと、一応の基本としては、
架空の犯罪都市「エリダナ」でトラブルバスターとして事務所を営む主人公コンビが
竜やバケモノ、もしくはバケモノじみた犯罪者などに
街で挑むというアクションバトルものです。
舞台設定が現代的、かつ犯罪都市という時点でかなり事件モノっぽい雰囲気は醸し出していますが、基本的にはファンタジー的な世界観です。
ただ、この手の一般的な作品であれば「魔法」に当たるものが、
本作の作品世界では「咒式」という特殊技術として扱われており、
現実の物理的な仕組みに乗っ取った現象を
意図的に生み出す特殊技術とされているのが特徴的。
使用するにあたっても、
しっかりそれ用の発動用の武器と弾丸(もちろんいちいち金がかかる)が必要で、
その費用のやりくりに苦労する世知辛さですが、
こういったディティールによってファンタジーとは一味ちがった、
現実的な雰囲気を出すことに成功しています。
こうした独特の特性はあるものの、
萌えキャラも出てきますし、キャラも立っています。
そういう意味では、王道のライトノベルといえます。
基本ラインだけは。
マトモさ皆無の壮絶なキャラクターたちと残酷描写
どこが違うのかというと、まずこの作品、マトモな人間がほとんど出てきません。登場人物の9割方は、完璧な異常者か、一見マトモだけど性格が破綻しているかのどちらかです。
そもそも、主人公コンビからして、一歩間違えれば犯罪者スレスレの連中です。
一応、作品世界では一職業のプロ(それもかなり優秀)として認められてはいますし、
他のキャラに比べれば多少はマシな部類のキャラ付けにはなっています。
とはいえ、裏では完全に違法な手段に訴えることも躊躇しませんし、
同業者を平然と当てうまにつかって犠牲にしたりもします。
生活がかかっているという動機はあるにせよ、
マフィアからの依頼でおたずねモノを狩ったりもしますから、
読者からみれば五十歩百歩もいいところです。
生活のために倫理に背く行動をとることも多いため、
むしろ敵方である竜やバケモノの方が、なんぼかマトモな気がするくらいです。
そういう連中が前述の咒式を駆使して戦いまくるわけですが、
なにしろ性格破綻極まりない連中です。
アクションシーンはもちろん、
ひとつひとつの行動がいちいち残酷かつ異様。
文章だからいいですが、
これが画像や動画なら
スプラッターのコーナーに置かれること
間違いなしの強烈さです。
特に、現行単行本8巻(アナピア編。7巻からの続きもの)に関しては、凄惨とかいうレベルを完全に通り越しており、全年齢向けライトノベルにも関わらず帯に警告文が記されているという代物です。
夢も救いも皆無!悪意の積み重ねが生み出す、負の作品世界
物語そのものも、そんなキャラクター達が暮らす世界のままならなさといった、社会の負の側面のみをひたすら強調したものになっています。
取り上げられる背景のテーマ自体も企業倫理、政争など相当重めですが、
それらを徹底的にマイナスの視点から皮肉っぽく、
斜めにみたものとなっています。
ここで重要なのは、
単に特定のキャラクターを悪役に仕立て上げて批判する、
というようなものではないこと。
指導者層や経営者層から
下々の庶民(もちろん主人公たちのようなアウトローな連中も含めて)に至るまで
あらゆる人々の小さな悪意が
最終的に作品世界の救いのない現実を形作っている、
というのが本シリーズに通底する世界観です。
冷静な立ち位置ではあるものの、それだけに余計にやるせなさが募ります。
言うまでもなく、ストーリーの展開もそれに沿って徹底的に救いがありません。いわゆるハッピーエンドなど、期待するだけ無駄です。後味は最悪クラスと言っていいでしょう。
ついでに言えば、萌えキャラのお色気シーンはライトノベルではよくあるシーンですが、本作だとガチで「濡れ場」です。萌えキャラの濡れ場が、こんなにも「萌え」をクールダウンさせるものかと実感できることでしょう。
1巻・2巻が肌にあうかどうかで向き不向きがわかります
とまあ、ココまで並べた段階で、「これ、ライトノベルとは言わんのでは・・・」と思う方もいるでしょうが、実際、基本ラインを除けば、展開といい読後感といい、どちらかといえばノワールもの、ピカレスクノベルズに近いものがあります。
むしろ、談話などを見る限り、当の作者自身が、ノワールものとして書いているフシもあります。
そういうのが好きな方には、ファンタジー的な要素が大嫌いというのでなければオススメ。逆に普通のライトノベルが好きという人には、「取り扱い注意!」と言っておきましょう。下手するとマジで落ち込みます。
なお、後の巻になるにつれてアクション要素がかえって冗長になっている部分もあるので、手をつけるならセオリー通り最初の巻から手を付けることを勧めます。個人的には、本作ならではの作品の特色は1巻と2巻が一番際立っていますので、このあたりが肌に合うかどうかが、本作の評価の分かれ目でしょう。
とりあえず、
「主人公が戦闘でVXガスを使用する」
というのを許容できるかできないかに、本作の評価はかかっていると思います。
追記:
ちなみに本作は、18年に恐ろしいことにアニメ化されました。
アニメ化が最初に発表されたときは「正気か?」と思ったものですが、発表後に放送が遅れていると聞いたときには「やっぱりか…」というのが正直な所でした。内容の残虐性はもちろんですが、物語として重すぎますし、どう考えてもテレビになじまない代物ですから。本で読んだ方がいいと言われる作品は枚挙にいとまがありませんが、本作はその典型例と言えるでしょう。
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