つくば市に住みついて、もうかなり立つ。

仕事の関係でたまたま移ってきてから色々あったけれど、そのまま居ついてしまった。確かに都心まで距離はあるし、街灯が少なく、夜道が暗い場所がやたら多いといった欠点はある。けれど、つくばエクスプレス(TX)に乗ればそう時間もかからないし、店も多いからなかなか住みやすい。何より、広々した雰囲気は首都圏で生活しているとなかなか新鮮だ。

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陸の孤島時代のつくばの主役 高速バス「つくば号」

さて、今でこそ茨城都民を象徴するような都市になったつくば市だけれど、かつては陸の孤島っぷりが半端ではなかった。

市内に鉄道はなし。80年代までは今の北条地区あたりを筑波鉄道なるローカル私鉄が走っていたそうだけれど、それもとうの昔に廃止されている。使える交通機関はバスだけ。もっとも、2019年、つまりバス路線がどんどん廃止されている今現在からの視点で見ると、地方都市で都心までのバスが存在するだけでもかなり恵まれてはいるのだけれど、不便なことには変わりなかった。

わたしが住み始めた当時、まだTXは工事をしている段階で、開業日さえ目途がついていなかった。その当時、つくば市から東京方面に出ようと思うと、選択肢は荒川沖駅・土浦駅・ひたちのうしく駅のいずれかまで一般の路線バスで出て常磐線に乗り換えるか、あるいはつくばセンター(バスセンター)から高速バス「つくば号」に乗るかのいずれかしかなかった。

もっとも、前者はまず駅まででバスに30分近く揺られたあげくに、まだ特別快速なんてなかった常磐線に長時間乗車。朝はさらにこれに猛烈な混雑が加わる(そもそもTX自体、本来は常磐線の混雑を緩和するための路線だ)わけで、都内通勤なんてとてもできたものじゃなかった。

ただ、通勤は論外としても、休日の昼間に何か用事があって都内に出るような時には、直通であるつくば号よりも、バス・JR乗換が必要な常磐線ルートを選ぶ同僚はかなり多かった。

別に値段が高いといった問題ではない。当時のつくば号上りの遅延ぶりは、あまりにもひどすぎたのだ。

ドル箱にもかかわらず不人気だった、つくば号上り

当時と言ったが、今でもつくば号の遅延は割と有名な話だ。というよりも、常磐道経由の高速バスは、いずれの路線もこの問題を抱えている。常磐道の三郷JCTから八潮を経て首都高三郷線で小菅JCTに至る区間。これが昔から渋滞の名所であり、高速バスにとっての鬼門なのだ。

TXができる前のつくば号といえば、鉄道がない、それでいて研究所関連で需要は多い区間を直通で結んだために、ドル箱中のドル箱路線だった。ほとんどひっきりなしの運行ペースにも関わらず、下り始発の東京駅では長い行列が定番で、それでもさばききれないというケースさえ少なくないほどだった。

それだけの人気路線にも関わらず、上りに乗るのはみんな嫌がった。下りは割と空いている三郷線だが、東京方面に向かって合流していく上りはもはや同じ路線とは思えないほどのトロトロ具合。3時間遅れた時は、不可抗力とはわかっていてもさすがに嫌気がさした覚えがある。乗換の不便があっても常磐線ルートが一定以上の人気があったのは、このあまりの渋滞のひどさ故だったのだ。

だから、TXが出来た時の衝撃と影響はすさまじかった。何しろ最短45分。さらに、価格も当時は似たようなもの。ハナから勝負になっていない。みるみる内に乗客はTXに移り、つくば号は便数を減らしていき、そして今に至る。かつてのイメージがイメージだけに、つくば号といえば遅延、という印象は今も根強いのが現状だ。わたし自身、よほどのことがない限りは敬遠していた。

接続路線の開通が三郷線の渋滞を変えた

ただ、そんなつくば号にとって、近年朗報といえるのが、常磐道への接続路線が開通したことだ。

長くなるので端折るが、かつての渋滞の大きな原因は、目的地が都心でなくても、一旦そこまで出ないと他に行けない高速道の構造が大きかった。特に大きかったのが物流関係で、千葉に行くようなトラックまでが、一度東京まで出るために常磐道・三郷線に集ってくる。これでは渋滞も当然といえるだろう。

ところが、新しくできたルートは千葉に直通。これならわざわざ渋滞しやすい都心に出る意味はほとんどない。結果的に、その分の通行量が丸々ヘリ、その分渋滞も緩和された、という理屈だ。

早朝のつくば号を2か月間試してみた結果

さて、ようやく本題だが、その結果つくば号上りの遅れはどのくらい緩和されたのか。

これが気になった理由は、つくば号上りの安さに尽きる。かつてがあまりに不人気だったために、TX開通以降、つくば号はたびたび異様な割引率の回数券や限定きっぷを出したりしてしのいできた。その流れか、今も上り便は下りやTXに比べるとかなり安い値段での乗車が可能だ。

ICカードでの支払い限定という条件はあるものの、現金ではなくIC支払いにするだけで800円(19年9月上旬現在。増税後の額は今のところ告知されていない)。

つくばから都内へのルートとしては、現段階では間違いなく最安値。しかも飛びぬけてだ。ここまで安いと、さすがに使ってみようかという気にもなる。しかも、前述の高速道路の改善で、かつての渋滞が嘘のようだという。

とはいえ、かつてのような凄まじい遅延では、常用するのは難しい。そこで、期間を区切って数ヶ月間、実際に乗車してみた。具体的には早朝、つくばセンター発5:30便、6:00便。あとはたまにその前後便にも乗車してみた。

結論から言うと、この時間帯だと朝ラッシュ時だけにやはり渋滞はする。ただ、かつてとはまったく比較にならないほど、遅れ時間は少ない。

日によって誤差はかなり大きいのは否めないが、2か月乗ってみて遅延は概ね10~30分程度。つくばセンター5:30便については、以後の便に比べて時刻表自体がかなり早着することを前提に設定されているようだけれど、実際には渋滞に巻き込まれるため遅延の幅は6:00便よりも大きくなる傾向にある。

これをどう見るかは人それぞれだけれど、時間通りにつくことこそ少ないものの、かつてと比べると定時性は格段にマシになっているのがお分かりいただけると思う。5分程度の遅れで済んだこともそれなりにあったし、逆に遅くなる場合も、30分まで遅れることはかなり少ない。1時間に達したことは期間中一度もなかった。実態に即した乗車時間ベースでいうと、5:30便ならおおむね1時間40分から1時間55分前後、6:00便なら2時間~2時間10分前後と言ったところが標準だろう。

※なお、念のためだが、わたしが乗った期間の遅延は普通のラッシュ渋滞によるものだけで、事故渋滞に巻き込まれたことが一度もなかったことは言い添えておく。この路線の場合う回路はあるものの、渋滞に巻き込まれた位置によってはまったく身動きがとれなくなるので、可能性としては考えておくべき。

ちなみに、前後便に関して言うと、6:30便は出発が遅い分渋滞もひどくなりそうに感じるが、実際には6:00便と大差ない。一方で、いかにも早く着きそうな5:00便はどうかというと、この便でも渋滞自体には引っかかってしまう。ただ、それでもさすがに他の時間帯よりはその程度は軽く、予想外に早く着いてしまったことも多かった。

時間厳守の用事には勧めないが、格安・快適さは見逃せない

いずれにしても、事実としてかつてと同じ路線とは思えないほど改善されている。

もちろん、バスというものの性質上、定時性が鉄道に劣るのは仕方がない。だから、時間厳守の約束があるような場合には決しておすすめできないし、日によるブレも大きいので、遅れを見込んで乗ったら逆に時間があまってしまったということも考えられる。

ただ、「安く東京に行く」という1点で考えるなら、現状これ以上の手段はない。それに、高速バスならではのリクライニング席の快適さは言うまでもない。そもそもTXに押されながらも、なぜつくば号がここまで生き残ってきたかというと、乗車している間の居住性の点が段違いだからで、その点では少し早く出る手間には十分見合う。

また、かつてとは違って、渋滞対策としてTX八潮駅の徒歩圏内にある八潮PAに停車(降車ボタンを八潮の料金所手前あたりまでに押しておかないと、そもそもPAまで降りずに通過してしまうので注意)するようになっているのも大きい。つくば号の場合乗り継ぎ割引などは設定されていないけれど、万が一渋滞がひどそうな場合の安全弁としては使えるはずだ。

多少遅れてもいいようなケースでは、かなり使える、というのがわたしの意見だ。今や主流のTXが、近年朝夕の混雑ぶりが相当悪化しているだけに、検討の余地は十分あるのではないだろうか。

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