ビジュアル系バンドについて掲示板を見たりすると目にするのが、「名古屋系」などの地名を冠した単語です。
これは何なのかと言うと、ヴィジュアル系内部の一種の小ジャンル区分とも言えるものです。
なぜかビジュアル系においては、地域別に音楽性や雰囲気がある程度共通する傾向があり、そこから生まれた単語と言えます。もっとも、近年はバンド数自体が増えたこともあり、当てはまらないバンドも増えていますが。
さて、この小ジャンル区分に従うなら、関西のビジュアル系バンドは、最初期のCOLORをはじめとして、パンク色が濃いバンドが多い傾向にあります。
ここで紹介するバンド「幻覚アレルギー」は90年代中盤に、その路線を地でいったバンドのひとつです。
元かまいたちのメンバーのうち二人で結成された幻覚アレルギーは、インディーズの段階で期待値が高く、いきなりロッキンfに付録がついてみたりと、かなり華々しく登場しました。
筆者も、とりあえず注目したものです。まず名前からあふれ出るアングラ感がいいじゃないですか。当時高校に入りたての、ヤバげなものに目がない盛りには、このネーミングセンスは眩しすぎたのです。
が、いざミニアルバムがでてみると、筆者はあからさまに「売れねえだろうなあ」と思いました。
一言でいうと、クサいパンク。さらに、素人目にもあまり洗練されてるとは思えません。
最後に入ってた、某事件をモチーフとしたとおぼしき「チョコレート中毒」の切れっぷりだけは強烈でしたが、音楽性的にはさほど光ものも感じませんでした。その時点では結局CDはそのまま棚の奥の方に直行してしまい、次に彼らの作品を聴くのは、ビクターからメジャーデビューした後のことでした。
そして、あらためて聞いたメジャー版の幻覚アレルギーですが、大化けしていました。
大化けとはいっても、別に売れたわけではありません。むしろ、よく契約したなビクター、と言いたくなるくらい、売れ線無視。
しかし、メジャーデビューした幻覚アレルギーは、明らかに洗練されていました。クサさものこっているものの、歌詞が先鋭化され、シュールな表現も加味されたことでほどよくバランスが取れています。
インダストリアルの要素を大幅に取り入れて曲全体も引き締まりました。
そして過激さはインディーズ時以上。単純に、かっこいいのです。
幻覚アレルギーは、そのアングラともいえる路線はそのまま保ったまま、各要素のクオリティと激しさをひたすら高めるという、ある意味もっともクソ真面目な、愚直な手法でもって、メジャーでは珍しいほど過激な音楽実験を展開したバンドと言えます。
もちろん、大衆受けはするはずもなく、はじめから商業的な意味での結果は見えていたとも言えます。実際、さほど売れたわけではありません。
ですが、ビジュアル系を語る上で、その独創性において外せない存在なのは間違いなく、ライブハウスレベルの動員であったにも関わらず、今でも「懐かしのバンドブーム」「ヴィジュアル系のルーツ」的な特集が雑誌に載るときには、超メジャーなバンドにまぎれてひょっこり顔を出していたりします。マイナーに終わったバンドではありますが、ビジュアル系の音楽性の幅の広さを拡大するのに貢献したという意味ではインパクトは絶大ですし、その点でその後のシーン全体の躍進の隠れた立役者と言えるかもしれません。
特に3rdアルバムの「Dのススメ」は、とびぬけたハードさで洋楽ファンにも受け入れられる出来になっています。
ヴィジュアル系特有の閉塞感と、それに似つかわしくない暴走っぷりが両立した作風のブレンドを味わえますので、興味のある方は是非。
なお、歌詞カードはなぜか鏡文字になっていますので、手鏡持参でどうぞ。
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