ご存知の方も多いと思いますが、ジャンプには「10週打ち切り」というシステムがあります。人気投票が毎週行われ、最下位になった作品はどんどん打ち切られていくというアレです。

このシステムの関連上、ジャンプには、単行本全1巻(続いても2巻)レベルの打ち切り作品が多数存在します。
これもいくつかパターンがあって、明らかに強引にまとめたのがみえみえだけど、とにかくも話を収束させている作品と、構想が壮大すぎたのか、「未完」という形で終わらせている(もしくは、特に話をまとめていない)作品とがあります。

ここで紹介する「メタルK」(巻来功士)は、そのどうみても収束していないラストから明らかなように、後者の「未完」パターンの作品のひとつです。もちろん全1巻。典型的な打ち切り作品なのですが、本作の場合、多少事情が通常の打ち切りとは異なっていたようです。

もっとも、内容を見ると「そもそも掲載誌間違ったね・・・」といわざるを得ないのですが。

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復讐劇を悪趣味でデコレーション『メタルK』概要

テーマは、とある令嬢の復讐劇です。
組織的な陰謀にかかり、両親とともに殺されてしまった少女が、数年後に人工の肉体を得て、陰謀の首謀者たちをKILLしていくという骨子。

この段階で、ジャンプの雰囲気にあんまり合いそうにないのですが、内容はさらに凄い。
この少女、攻撃方法が、「自分の全身を溶かしてその成分から強酸を精製し、相手にぶっ掛ける」というものなのです。相手の死に様は、肉骨溶けつつの阿鼻叫喚図と化します。・・・どうみてもジャンプって感じでないことはお分かりいただけたかと。

これだけでも相当凄惨な内容なのですが、本作の恐ろしい所は、主人公がここまで振り切れているにも関わらず、悪役たちのえげつなさがまったく見劣りしないことです。特に、動物のマスクを人間にかぶせた上で人間狩りをする第二話などは、不快感・凶悪さともにMAXで、少年誌うんぬん以前に漫画全体で、ここまでえげつない悪役というのもざらにはいないでしょう。

作品自体の構成は復讐劇の典型ともいえるものですが、そのすべてを考えられる限り悪趣味な方向に振り切ったのが本作の特徴と言えます。

バトルものの典型キャラでさえも何か違う『メタルK』

この「メタルK」が出てきた頃は、ちょうど後にジャンプの色ともなる、バトル物路線が定着し始めた頃です。ですので、それにならってか、本作も特に後半は、バトルものの色合いが強くなってきます。

まずはバトルものに欠かせない、仲間キャラクターの登場(男)です。本作のヒロインとの恋愛ドラマも期待できる、というか、それも意図しての登場だったのかもしれません。

が、その記念すべき初登場回。かれも悪役を狩る存在なのは同じなのですが、ヒロインに勝るとも劣らないKILLッぷりです。脅しまくったあげくに、ガラスの破片の切っ先に首スジを押し付けます。

・・・なんというか、同時期に掲載されていたバイオレンス作「ブラックエンジェルス」(平松伸二)もそうでしたが、この頃のジャンプには、殺るときは首から、みたいな伝統でもあったんでしょうか?

なんにせよ、正統派ヒーローキャラさえもこうなってしまうのが『メタルK』の世界なのです。

人気とは関係なく10週打ち切りの異例な作品

実は、雑誌掲載当時、本作は、決して人気がなかったわけではないと言います。わたし自身、かなりわくわくしながら見ていた記憶があります。話そのものの筋はオーソドックスな復讐物ということでしっかりしていますし、何よりそれまでお目にかかったことのない陰惨さは、その手のものに免疫のない少年にはなにかいけないものを見ているような、ゾクゾクしたスリルがあったのです。同様の思いで本作を見ていた読者は、決して少なくなかったでしょう。

ですが、「メタルK」はこれから戦いの本番!というところで打ち切りになってしまいます。作者である巻来氏の回顧録によれば、この方針は編集部内では既定路線として秘かに決まっていたことだそう。やはり、少年誌においては異端すぎるということだったのでしょうか。

最終回は、特に話をまとめようとした形跡もなく、本当に打ち切りらしい打ち切りです。

もっとも、このネタで無理に話をまとめようとしたら、それこそ却ってボロボロになってたでしょうから、この判断は正しいと思います。ここまでダーティー・ダーク・バイオレンスと三拍子そろってたわけですし、打ち切りを「ああ、やっぱりか」って思った読者は多かったんじゃないでしょうか。

青年誌だったらヒット作になっていたのでは…

ですけどこの作品、ヤンマガやヤンジャンあたりの連載だったら、お色気的な要素も強い展開も含めて、結構違う展開になっていたんじゃないかと思います。
何気に、主人公のヒロイン、王道とはいえ、微妙に今で言う萌え的な要素も持ってるし(絵柄は系統ちがうけど)、売れる要素という面では決して見劣りするものじゃないんですよね。

特にヤングジャンプは、最近では『エルフェンリート』あたりのバイオレンスと萌えとストーリー性を結合させた作品を掲載しているだけに、時代は違うとはいえ、仮に掲載されていれば、親和性は高かったのではないかと。他の掲載作品をみても、なんとなくそういう香りを感じさせる作品が多いですし。

歯車さえうまくかみ合っていれば、80年代にバイオレンス+萌えを提唱した先駆け中の先駆け、くらいになっていたかもしれません。今更言っても仕方ないのですが。

そういう意味で、掲載誌の判断の重要性を知らしめてくれる一品です。
というか、むしろこのマンガを少年ジャンプに載せようという企画が、よく通ったなって感じですが。

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