受験生の皆さんには大人のたわ言と捉えられてしまうかもしれないけれど、受験というのは数字=点数ですべてが決まるという意味では楽な世界だ。
そこには例外は(出題ミスなどの根本的なエラーは除いて)存在しない。
だから、やったらやっただけ評価される。
バイトなどをしているならわかると思うが、仕事ではこうはいかない。もちろん、スポーツなどの才能が必要な世界も同様だ。
とはいえ、勉強した成果がまだでていない時期に限れば、その無味乾燥さと不安は仕事以上だろう。
何しろ金という絶対的な対価がない上、今は合格したからといってその後の成功まで保証されるような時代じゃない。
医者など明確に何らかの夢があって受験を志したならまだしも、そうでない人にとってはたまったもんじゃないと思う。
特にこういう時期が長くなっているなら、やる気もへったくれもないだろう。
とはいえ、受験という進路を変えない以上は、どこかでやる気を取り戻すしかない。
そのやる気を出すという部分で、うってつけの一冊がある。
『お前はバカじゃない やれば必ず合格する』(吉野啓介/ゴマブックス)だ。
先に書いておくと、内容の全てを無条件でおすすめというわけにはいかない。
ただ、やる気を最高潮までアゲるという点において、本書に勝る本はないだろう。
作者は高校時代暴走族に所属して逮捕寸前、当然成績は下の下(偏差値20代)で受験など考えてもみなかったが、あるきっかけで発奮。
猛勉強の結果数ヶ月で大学合格を果たし、最終的には予備校の講師になった人物だ。
現在は東進で教えているらしいので、知っている人もいるかもしれない。
そんな彼の特異な受験経験をもとに、受験生に一冊丸々使って檄を飛ばすという内容だ。
で、その檄の内容はというと、悪くいえば根性論。
また、本書内で触れられている睡眠を削りまくっての生活は、受験以前にむしろ健康面で危険すぎる(実際に、著者自身も合格後気が緩んだ途端に入院するハメになったという)。
わたし自身、当時無理に真似しようとしてかえってリズムが崩れてしまった。
だから、このあたりの内容については、お世辞にも勧められたものではない。
そういう意味では、問題がない本とは言い難い。
にも拘らず何故紹介するかというと、文章の熱量と構成・展開の突出した巧みさ。
文章で気持ちをあげる(感情を動かす)には、文章自体はもちろん、その構成についても、論理展開についても相当のバランスが必要だ。
本書は、そのバランスが奇跡的と言ってもいいほどにうまいのだ。
なんせ、ヤンキー文化にも体育会系文化にも全く疎い、それどころかそうしたアツさをむしろ毛嫌いしていたわたしでさえ、これをきっかけにシャーペンを握ったほど。
一言で言うと、読むカンフル剤と言ってもいいほどだ。
正直、これを読んでもまったくやる気に変化が見られないというのなら、何かが根本的に間違っているかもしれない。
基本的にはやる気を出すことを主眼に置いた本書だけれど、もう一ついい点が、視点そのものは現実的であることだ。
たとえば、勉強法について。
本書で紹介される彼の勉強法は、決して効率的とは言い難い。
ただ、本気で成績が悪い場合、基礎がすっぽり抜けているわけで、そもそも効率のいいやり方なんてできるわけがない。
そういう意味では、本書の内容はツボを突いているのだ。
もちろん、できないにしても程度問題だし、相性もあるから、そのまま取り入れるのは無謀だ。
けれど、最低でも現状に即して自分の勉強法を見返すきっかけにはなるはずだ。
この現実性は、直接の受験以外に触れた部分にも垣間見える。
世の中なんでもかんでも頑張ればうまくいくわけじゃない、というのが吉野氏の立場なのだ。
数字で結果がでる受験を彼は「頑張りだけで何とかなるもの」とするが、むしろ彼の中では例外的な扱い。
だから、恋愛にせよ将来にせよ、本書で述べられるアドバイスは、アツくはあっても同時にシビアだ。
けれど、だからこそ、本全体の信頼性が上がっている。
ここできれいごとを延々述べていたら、ここまでやる気の出る本にはならなかっただろう。
ぶっちゃけ言うと、吉野氏は似たテーマの著書が多いので、この本にそこまでこだわる必要はないといえばない。
ただ、熱量という点では、処女作ということもあってか、本書がダントツだと思っている。
古い本なので入手経路は限られるけれど、手に入るようならぜひ気分転換のつもりで探してみてほしい。
やる気もないままに勉強しているくらいなら、少々時間を割いてでも探す価値があるはずだ。
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