今となっては地域に特化したローカル線となっている弥彦線だが、もともとは只見まで伸ばす壮大な構想を持っていた。そんな構想の一部を担っていたのが、弥彦線の廃線区間(通称:弥彦東線)だ。

もっとも、この区間は戦前の段階で既に利用者は少なかったというから、最初から夢物語に近い構想だったのかもしれない。その上、廃止時には部分廃止というのが影響したのか、当時続々と廃線になっていた他の特定地方交通線と比較すると話題に上ることさえ少なかったという。

その過程だけで寂しさ際立つ弥彦東線の廃線跡を、代替交通と徒歩で巡ってみた。近郊路線ということでいかにも歩きやすそうだが、一部そのイメージに相反する区間もあるので参考にしてほしい。

※以下、文中のデータは取材当時のものです。

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ほぼ全区間が国道化された弥彦東線の廃線跡

典型的な赤字路線だったとはいうものの、弥彦東線の沿線は、それなりに活気のあるエリアも割合的にかなり多い。一見しただけだと、そこまで苦しかったようには見えないほどだ。ただ、そうはいっても都会というほどではないし、バスと鉄道を両方満たすほどの需要には及ばなかったのだろう。

そんな越後東線だが、廃線跡については基本的にはそのまますべて道路になったものと考えていい。東三条駅東口付近が市道である以外は、ほとんどが現・国道289号線となっている。

言い方を変えれば、国道289号線を辿れば、そのまま弥彦東線の廃線跡を辿ることになる。複雑な箇所もほとんどなく、ルート取りについては極めてわかりやすい路線と言えるだろう。

距離自体も8キロほどと、散歩になれている方なら手頃。数は多くないがコンビニや休憩所なども点在しているので、その点では便利な廃線跡と言える。

ただし、問題は、国道とはいうものの道路幅が狭い区間がかなり長いこと。後述するが、五十嵐川を挟んで東三条駅に近づいていくにつれ、道路の様相は一変する。もしこの区間を歩くのであれば、安全に関しての注意は怠りないようにしたい。

参考ルート図(GoogleMapにて作成)

痕跡は皆無だが、整備された駅跡

まず、始発駅だった東三条については、東口と跨線橋の土台として無理矢理アレンジしたかのような形で、短いホーム跡が残っている。事前知識がなくても「あれ?」と思うのではないかと思うくらい、見るからに不自然なので、ひとめ見ればすぐに気づけるはずだ。

東三条駅東口に残る弥彦東線ホーム
東三条駅東口に残る弥彦東線ホームの痕跡

それ以降の途中駅については建物やホーム自体の痕跡は皆無だが、途中駅の大浦駅については公園「ひめさゆりパーク」として整備されており、石碑が残されている。トイレなども設置されており、一息つくには絶好の場所だ。最寄りバス停は「高岡」。

また、終点の越後長沢駅跡は、「長沢駅跡」バス停の駐車場・待合室となっている。駐車場自体には何も痕跡はないが、道路をはさんだところに建っている派出所の前に駅跡を示す小さな石碑が残っている。

弥彦東線長沢駅跡そばの記念碑
弥彦東線長沢駅跡そばの派出所前にある記念碑。

温泉巡りも悪くない!弥彦東線代替バスのルートと微妙な本数

弥彦東線の代替バスは、廃止時から変わらず、現在も越後交通が運行中。越後交通公式の「東三条駅前=八木ケ鼻温泉線」がそれにあたる。

弥彦東線代替バス八木が鼻温泉線
弥彦東線代替バス八木が鼻温泉線

発着は東三条駅の西口を出た、ロータリーからになる。一旦弥彦東線とは反対側に向かって市街地を少し走った後、方向を変えて信越本線の線路を高架で横断する。

その後しばらくは弥彦東線とは少し離れた県道331号を進み、五十嵐川を渡る直前あたりで国道289号線に合流する。以降、長沢駅跡バス停までは、ひたすら弥彦東線のルートを辿る。

本数は閑散区間のバスとしてはさほど少ないというほどではないが、そうはいっても平日でも3時間近く間が開く時間帯がある。土日祝はこれがさらに減るため、他路線と併せて回ろうとすると意外に計画を立てるのが難しくなる。

特に片道だけでも歩くことを考えるなら、この廃線跡だけで1日見ておいた方が無難。前述のように安全性に疑問符のつく道路なため、せめて焦らないような状態で臨みたい。

ちなみに、代替バスは越後長沢を通り過ぎると、山がちな道をいくつかの集落を抜けながらさらに奥へ奥へと進んでいく。最終的には終点である八木ケ鼻温泉はバス停の目の前が「いい湯らてぃ」という温泉施設になっている。

「いい湯らてぃ」外観
「いい湯らてぃ」外観

日帰り入浴も可能(逆に宿泊はなし)なので、それを楽しみにめぐってみるのも悪くないだろう。

「いい湯らてぃ」付近の光景
「いい湯らてぃ」付近の光景。巨岩がそびえたつ。

弥彦線廃線区間(弥彦東線)片道を徒歩で歩いてみた

以下では、弥彦線廃線区間(東三条~越後長沢間、通称弥彦東線)を歩いてきた時の記録を残す。

訪問日:2018年8月
所要時間:片道約2時間半

直線のインパクトがすごい、越後長沢~大浦間廃線跡

ルートについては弥彦東線のデータのページで触れた通り。この時は、一度代替バスである越後交通で八木ヶ鼻温泉まで行き、引き返してきて「長沢駅跡」バス停で下車した。ここから東三条駅東口を目指して歩いていくということになる。

弥彦東線長沢駅跡の停留所
弥彦東線長沢駅跡の停留所。そのまんまのネーミングである。

あまりにもまっすぐ!な長沢側の国道289号

「長沢駅跡」バス停から5分ほど歩くと、セブンイレブンがあるので、ここで準備をする。さて、出発、なのだが…

いまに至るまで、わたしの中での弥彦東線の廃線跡のイメージは、ここから大浦駅跡(現・ひめさゆりパーク)に至るまでの、道路のイメージが極めて強い。一言で言うと、「まっすぐ!」

越後の平野ならではのだだっ広さ

とりあえず、その時撮影した写真を一枚挙げておく。

まっすぐ!

下手な写真なのでわかりづらいと思うが、実際に見るととにかく道の先が見えない。そのせいか、周囲の農村風景のだたっぴろさがよけいに際立っている。

新潟県に関して筆者は決してそれほど詳しいわけではないのでイメージでしかないのだが、まさに「越後の平野」を地でいくだたっぴろさだ。

確かに廃線跡というのはこの手の区間は珍しくないが、ここまで広さが際立つのも珍しい気がする。

実際には全体でも8キロしかない弥彦東線、ましてその一部なのでさほどの距離を歩いたわけもないのだけれど、それこそどこまでもこの風景が続くような錯覚に陥った。気持ちのいい錯覚だ。

弥彦東線大浦駅跡
弥彦東線大浦駅跡(現・ひめさゆりパーク)。そばには高岡バス停がある。駐車場、トイレ完備。

東三条駅寄りの後半、国道289号が裏の顔を見せる

整備された大浦駅跡で一休みして、再度出発。大浦駅跡は五十嵐川からほど近い位置にあり、すぐに橋を渡ることになる。正直、知名度は高い方とはいえないのだろうけれど、川としての規模は大きく、雄大な景色が拝める。

五十嵐川
五十嵐川。ここから東三条寄りの道路が…

道の幅が全然違う…R289のあまりの変貌

さて、いよいよ東三条側に渡ってきたのだけれど、こちらは長沢側とは打って変わって、周囲の視界がさほどよくない。

道路の見通しが悪いわけではなく、単純に建物が多くなってくるため、周りの景色が見えなくなってくるのだ。ただ、最初はそれだけだったし、特に歩いていくうえで問題はなかった。それに、この辺りはあからさまに線路をそのまま道路にしたという感じで、雰囲気もある。

その雰囲気に気をとられていたせいだろう。いつの間にか歩道がなくなり、路肩がギリギリの幅しかなくなっていることに気が付いたのは、どれくらい行ってからだったろうか。

ヒヤヒヤするが何もできない!絶望的な路肩の狭さ

一旦気づいてしまうと、あとはヒヤヒヤものだった。

なにしろ、自分の腕のすぐそばを車の車体が走り抜けていくのだ。少なくとも、わたしの目線からはそう見えた。身の危険を感じるほどだ。

しかも、実際に危険を感じているのはわたしだけではないらしい。歩いていくわたしの背後に、ノロノロ運転の車が何台も連なることが多くなってきたのだ。ドライバーの方も、「これ、ぶつけるんじゃないか?」と不安だったのだろう。

反対車線に車がいないときは派手に間隔を取って追い越していくのだが、そうでないときには一向に追い越そうとしない。追い越すとしても、スピードを極端に落としてじわじわという感じだ。

ただ、こちらとしては相手の心遣いはわかるが、申し訳ないやら、怖いやらで焦るばかりだった。何しろ、手の打ちようがない。脇にどこうにも、そんなスペース自体がろくにないのだから。

それでも一応全区間歩きとおしてしまったのだから、わたしも大概図々しいとは思うのだけれど。ただ、今思えば何事もなく終わったのはドライバーの方々が気を遣ってくれたからであって、もしそうでなかったらと思うと正直ゾッとするのも確かだ。

東三条駅寄りは道路幅がかなり危険

歩ききっておいてこんなことを言うのも何だが、まとめておくと、五十嵐川を渡ってからの東三条寄り区間は、かなり危ない状況と言わざるを得ない。

おそらくこの区間の行程の半分近く(以上?)で歩道が設置されていないのはもちろん、路肩のスペースさえほとんど余裕がない。その上、トラックなどの大型車を含めて交通量がかなり多い。

この区間に限っては、筆者自身、もう一度歩きたいとはとても思えないので、脇道を使ったりして横から眺めるにとどめた方が無難だと思う。

なお、道幅が特に狭い区間は現在は派出所になっている旧越後大崎駅跡あたりまで。これ以後も歩道がない部分はあるものの、先ほどまでのように危機感を感じるほどの狭さではない。

旧越後大崎駅跡に建つ派出所
旧越後大崎駅跡に建つ派出所。駅の痕跡は皆無。

ただ、この時は横溢区間で既にぐったりしてしまっており、少しでも早く東三条駅に到着しようと必死だった。だいたい、列車の時間がそろそろまずかった。時間の余裕は多少はとっておいたつもりだったが、足りなかったのだ。

東三条駅構内にも残る、弥彦東線の面影

そろそろ信越本線の線路そばに来る、その直前で長かった国道289号と分かれて市道に進む(分かれるといっても、国道の方が曲がっていくので、むしろ道なりなのだが)。

高架の下をくぐると、いよいよ線路そばだ。正面にマンションらしきごつい建物が見えてくるが、
そのそばにはかつて弥彦東線が発着していただろうスペースが今も残っている。

マンションのたもとから見る東三条駅。手前に弥彦東線のものらしいスペース(草むら)が見える

ここまでくれば、東三条駅は目前なのだが、最後に補足しておく。
東三条駅の東口は無人改札なので、18きっぷなどだとインターフォンで会話してゲートを空けてもらうしかない。そんなに手間がかかるわけではないが、多少のタイムロスはある。
ギリギリのスケジュールを組んでいるとそのロスで乗り遅れたりするので、充分にご注意を。

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