日光から米沢(奥羽本線)までつながる大幹線の一部を担う計画もありながら、60年代の時点で一日3往復という絶望的な状況だった国鉄日中線。蒸気機関車の最後の運転区間としてファンには知られていたが、一般的には「日中走らない日中線」というあまりにもベタな駄洒落の方が有名だろう。
当然延伸などできるような状況ではなく、路線としても残念な経緯を辿ったわけだが、廃線巡りの中でもいまだかなりマイナーな位置づけだ。そんな日中線の廃線跡を徒歩と代替デマンドタクシーを利用して旅してきた。
※以下、当記事中のデータは、取材時点でのものです。
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比較的挑戦はしやすいが…日中線廃線跡の現況を分析する
日中線はルート的にはおおむね現在の県道の近くを走っており、県道と何度か離合を繰り返しながら熱塩に至る。
道のり的にも道路か、遊歩道として整備されている区間がほとんどなので、ほぼ全線に渡って当時のルートを辿ることが可能。距離的に11キロ前後と廃線の中ではなかなか手ごろなこともあり、歩鉄初心者の方でも比較的挑戦しやすい部類と言っていい。
ただし、あくまでも「廃線としては」。短距離と言えるほど手頃なわけではない。
その割に、町中区間を過ぎると施設が一気に減る…というか、皆無になる。これで何が問題かというと、休憩できるような場所が基本ないことだ。特に、トイレ休憩ができないことは非常に重大と言っていい。
一応終点間際に温浴施設があるが、1か所では当然当てにできないし、もし閉店日だったらアウトだ(一応、ルートを逸れれば加納のあたりに郵便局があるが、当然トイレについては当てにできない)。かといって、距離がそこそこある以上水分補給をしないわけにもいかない。体調管理には十分な配慮が必要と言える。
一方、営業当時から駅舎の荒廃が問題になっていたこともあってか、終点の熱塩駅が日中線記念館として残されている以外、一切駅舎は残っていない。せいぜい、道路わきに駅標のレプリカが立っているだけだ(会津村松駅に関してはそれすらない)。
また、完全に道路化されているため、実際の線路などの痕跡もほぼ消失しており、そうした意味では期待はできない。ごく一部、モニュメント的に残されている箇所はあるものの、基本的にはゆるいカーブなどに面影を感じる程度だ。
ただ、その代わりというわけではないが、遊歩道部分の半ばにはSL機関車が飾ってあったりして、なかなか見どころはある。
現在はデマンドのみの日中線代替交通
転換当初は会津バスの千石沢(日中)線(喜多方駅前~日中線記念館前~千石沢)が運行されていたが、2012年9月をもって完全に廃止。
現在は、該当する区間の地域の足として、喜多方市によるデマンドタクシーが運行されている。平日のみの営業で、前営業日の午後5時までの予約制。かなり利用局面が限定されてしまうが、料金は大人1回乗車で400円と、なかなかのリーズナブルっぷりだ。
ちなみに、実際の運行業務自体は、かつてバスを運行していた会津バスが受託している。
複数の路線があるが、さすがにタクシーなので、廃止されたバスとは運行経路が異なる。日中線が走っていたエリアをフォローしているのは「加納エリア」便と「熱塩エリア」便の2系統。
終点だった熱塩駅周辺を「熱塩エリア」便、その一つ前の会津加納駅までの地域を「加納エリア」便が担っている。これにより日中線沿線エリアへのアクセス自体は可能だ。
ただし、特に熱塩エリア便は日中線のルートとはかなり異なるため、路線跡を辿るという目的で使うには向いていない。予約がない停留所についてはショートカットするようなので、なおさらだ。
鉄道と同じ景色を味わえるかも、という目的だとかなりガッカリするので、最初から周辺地域の雰囲気を味わうためと割り切って使った方がいい。
田舎情緒を味わうには最適?日中線廃線跡を徒歩で行く
以下では、筆者が日中線の廃線跡を徒歩で訪問したときのことをまとめておく。
所要時間:約4時間
(※途中でルート取りを間違えて迷ったロス時間も含む。間違えなければおそらく3時間ほど)
喜多方駅~会津村松駅跡間
出発は早朝4:30。なぜこんな時間に出発したかというと、スケジュールを無理に詰め込んでしまったのと帰りのデマンドタクシーの時刻の都合上、この時間でやるしかなかったためだ。
日中線のホームが残る喜多方駅
日中線が発着していたホームは、一部が駐車場の用地に使われているものの残っており、駅標もそのままになっている。入ることはできないが、喜多方駅横の駐車場からフェンス越しに駅標を間近に見ることが可能。
駐車場は駅の改札をでて、左手に行けばすぐにみつかるはずだ。
「日中線のしだれ桜」で知られる遊歩道
喜多方駅での分岐後3キロ強は前述の通り歩行者・自転車専用の遊歩道として整備されている。駅を出てすぐ左折し(前述の駐車場の前の道)まっすぐ歩いていけば、5分ほどで入口に到着する。
この遊歩道はしだれ桜が3キロに渡って1000本近く植樹されており、「日中線のしだれ桜」として喜多方市内でも有数の桜の名所となっている。というか、東北地方全体を見渡しても桜の名所としては相当に著名な部類。季節になると見事な花をつける。
シーズンは例年だとおおむね4月下旬ごろで、この時期には「桜ウォーク」というウォーキングイベントも開催されている。季節は限定されるが、運よく時期にあたれば満開の絶景をみながらの廃線跡歩きが楽しめるだろう。
特に前述したSL周辺は、しだれ桜の絶妙なピンク色とSLのレトロなメカメカしさの絶妙な取り合わせにより撮影スポットとしても有名。廃線好きならなかなか楽しい道のりだと思う。
ただ、残念ながらこの時は思いっきりシーズンを外していたため、訪問時には当然咲いていない。それはいいのだが、これが思った以上にしなだれて、道に覆いかぶさっている。そのため、これを避けて歩いていると、距離以上に時間を食ってしまうことには留意されたい。筆者は春だったらさぞかし風流だろうになあ、と思いながら歩いた。
また、この遊歩道は整備は行き届いているものの、路面は舗装されていない。歩く感覚としては、細かい砂利が敷き詰められた公園のじゃりじゃりした感じを想像してもらえるとちょうどいい。歩きづらいというほどではないが、靴は選んだ方がいいかもしれない(ちゃんとしたスニーカーなど)。
意識しなければまず気づけない会津村松駅跡
会津村松駅跡についたのは、出発から50分後。3キロ弱のはずなので、筆者の普段のペースからするとすこし遅い。
この駅に関しては、本当に何も残っていない。民家の中のちょっとした空き地といった感じだ。意識していなければ、ここが駅跡だったとは誰も想像できないだろう。
なお、この駅のすぐ目の前で遊歩道は車道を渡るが、この車道を右手に行くとすぐにコンビニがある。筆者が見た限り、この先店と言えるものはまるでないので、必要な食べ物・飲み物などはここで調達しておくことをお勧めする。
会津村松駅跡~上三宮駅跡間
会津村松を過ぎた後も、遊歩道はしばらく続くが、やがて唐突に途切れる。とはいっても、途切れた後もそのまま細い一般道がまっすぐ続いているので、迷うことはないはずだ。
未舗装の砂利道は天気によってはきついかも
一般道を道なりに行けば、ほどなく県道335号に合流する。
途中数百メートルほど未舗装の砂利道のままになっている部分があるが、多少歩きづらい程度。かかる時間も5分程度だ。ただ、雨の場合は防水靴でもない限り、足元が辛いかもしれない。
押切川沿いにはサイクリングロードも
県道との合流後すぐに大きくカーブして押切川を渡る。この川岸には、鉄道跡とは別にサイクリングロードが設けられていて、直接熱塩温泉まで続いている。別記事で触れたように熱塩エリア付近は公共交通は壊滅的なので、もし体力に余裕があるならレンタサイクルも使って回るのも手かもしれない。
この後しばらく行った道路わきに上三宮駅のレプリカの駅標が立てられている。ただ、それ以外に駅を思わせる痕跡は見当たらなかった。
上三宮~会津加納駅間
そのまましばらく道なりにすすんだところで県道335号は大きく右にカーブしていくが、
ここが日中線跡との分岐点となる。
草刈りを見ながら県道から分岐
日中線跡はここで県道335号と一度分かれて、農道のような未舗装区間をへて一般道にでる。
ちなみにこの未舗装区間は、前述した遊歩道としだれ桜の延長を目指すプロジェクトによるもののようで、筆者が訪問したときには大規模な草刈りが(おそらく有志の方々によって)行われていたため、分岐部分はさけてその少し先の小道から未舗装区間に入った。見方を変えれば、草刈りが行われていない時期だと立ち入りがむずかしいかもしれない。
未舗装区間はそんなに長くなく、ほどなくアスファルトの一般道に出る。ここからは再び県道335号と合流するまで、この一般道を道なりにいくだけだ。
割と広い道だが、交通量の大半を県道が受け持っているのか、車はそんなに多くなく、歩きやすい。あたりも建物が少ないので、広々とした景色を眺めながら歩けて気持ちのいい区間だ。
かつては小学校通学でにぎわっただろう、会津加納駅跡
再び335号に合流する地点の三角州には、モニュメント的な感じで線路が一部残されている。
合流後すぐ、県道右手から少し奥まったところに、加納小学校が右手に見えてくる。この時は通学時間帯(夏休み中のはずだが、登校日だったんだろうか?)ということもあり、小学生たちの姿がちらほらみられるようになってきた。子供が少なくなっている現在でさえこれだけいるのだ。おそらく、駅が現役のころはさぞかし通学でにぎわったことだろう。
そんなことをつらつら考えつつ歩いていると、ちょうど小学校への入口となるあたりの県道わきに、会津加納駅の駅標レプリカが建っている。例によって、それ以外に駅を思わせるものはない。
会津加納駅跡~熱塩駅跡
さて、いよいよ最後の駅間となる。
唐突に出現する大規模温泉施設「夢の森」
会津加納駅跡を通り過ぎてそのまましばらく行くと、県道335号から分かれて右手斜め前に向かって伸びる道路がみつかるので、そちらに入る。ここが県道335号との最後の分岐となる。
まっすぐ行くと、今度は県道383号に合流する。廃線うんぬんを抜きにしても、県道383号へのショートカットルートと言える道だ。
県道383号に出ると、まず前方に高速道路の高架が掛かっているのが見える。それを超えたあたりに「夢の森温泉施設」という温浴施設がある。相当規模も大きい施設が前触れもなく出現するので驚くが、日中線廃線沿線では久しぶりに見かける営業施設だ。なんだかホッとする。
営業時間を外しているうえに休館日というのが重なって筆者は入れなかったが、なにしろ疲れがちょうどピークになるあたりだ。時間と日時が合うなら、ここで休んでいくのも悪くないだろう(ただし、長期休館している場合があるとの情報もあるため、入りたい場合は事前にTELなどで確認しておいた方が無難)。
ひそかに登場する、熱塩駅への廃線跡
夢の森温泉施設を超えてしばらくいくと、道路わき左手が一段高くなっており、そこに小道が伸びているのに気づく。事前に調べた時は気づかなかったが、恐らくルート的にこれが廃線跡だろう。意識していなければまず気づかないほどに、なんとも秘かな登場っぷりだ。
この小道はカーブを描きながら県道383号から離れ、終点熱塩駅に向かっていく。一応、ストリートビューの画像を貼っておく。
地元の方は直接上がっているようだが、一応少し先にいけば普通の道からも入ることは可能だ(大回りだが)。
このルートだと道路はとぎれとぎれになるが、いかにもそれっぽい空き地などもあり、廃線がどう伸びていたのかは概ね判別できるはず。
ただし、最後に渡る野辺沢川に関しては鉄橋も既になく、川岸はただの藪になっており、そのまま進むことは不可能。最終的には県道383号に戻って迂回することになる。いずれにしても、ここまでくればあと一息だ。
終点・熱塩駅跡でレトロなムードに浸る
終点の熱塩駅に近づくと、県道からでも左手に踏切跡などの遺構が見えてくる。熱塩駅は日中線記念館として整備されているのだ。この時は開館していたのでじっくり見物したが、仮に閉まっていてもレトロなムードをたたえた駅舎を見るだけでもかなりの満足感があるだろう。
なお、この時はそのままあらかじめ予約しておいたデマンドタクシーに乗り込んでしまったのだけれど、日程に余裕があるならそのまま熱塩温泉を訪問できればベストだろう。
以上となるが、先述した通り、廃線としての明確な痕跡は、終点を除いては多いとは言い難い。そこを割り切れるかどうかでかなり受け止め方は違うだろう。
ただ、廃線はともかく、全線に渡り田舎らしい風情が漂っており、純粋なウォーキングルートとして見れば、歩き甲斐はかなりある。むしろ田舎歩きのついでに廃線を見る、くらいの気持ちでいた方がちょうどいいかもしれない。
違った意味で高い踏破難易度…帰りの足の確保は忘れずに
さて、これで日中線の廃線探訪は終わりなのだが、最後に注意点として帰りの足に触れておく。
先に触れたように、このあたりには事前予約制のデマンドタクシーしか公共交通機関がなく、さらに平日のみの運行。
このあたりを踏まえて計画を立てておかないと悲惨なことになる。正直、片道ならともかく、往復するのは流石にきつい距離なので、注意も何も問答無用で使わざるをえないのだが、そのためには事前の日付調整が関門になる。
筆者にしてもかなり事前調整はしたのだけれど、現地までのアクセスなどを考えると、なかなかちょうどよく平日にならない。第一、仕事が平日5日である限りは、有給などを使わないと無理だ。
確かに、日中線はルートは追いやすい。だが、距離がそこそこあるにも関わらず、この交通環境はつらい。休憩もとりづらい点もあわせて考えると、一般的な意味合いとは違った意味で踏破難易度が高い路線ともいえる。
もっとも、そこをクリアできるなら、なかなか気持ちのいい廃線歩きが楽しめるはず。当時からマイナーだった日中線だが、だからこその魅力を堪能してほしい。
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