日々生きていると、色々思い悩むことは絶えません。
これ自体はハッキリ言ってどうしようもないわけですが、ここで打てる手にはいくつか種類があります。

1つ目は正攻法。思い悩むその原因に真っ向から立ち向かって解決してしまうやり方です。
ただ、それがいつでもできるんならだれも苦労はしないわけで、そういう時には2つ目の方法が役に立ちます。
一言で言うと、逃避。聞こえは悪いですが、これはなかなか侮れません。
思考を一旦他に逸らすことで、自分の脳みそを平静な状態に戻すわけです。
そして、思考さえ平常に戻れば、悩みに立ち向かうにしてもそれまでまったく思ってもいなかったような手が思いついたりします。

さて逃避するために何をするかは人によっても差がありますが、有用な手の代表格として読書があります。
あれは頭を強制的に他人視点の別世界にもっていくようなものなので、行為の性質から言っても効果は抜群です。
特に漫画なんかは、考える余地が少ないためうってつけです。
ただ、ここで問題になるのが、そもそも思い悩んでいるような状態だと漫画であっても色々小難しいことを考えてしまって世界になかなか入れないことです。

 

ということで、今日の本題ですが、そういう時に圧倒的に使える一冊をご紹介します。
漫画太郎氏による、「星の王子様」です。

どこかで聞いたタイトルだなと思われるでしょうが、お察しの通り、「原作」はサン・テグジュペリの同名作。
児童文学として名高いですが、むしろ大人に向けて書かれたと思わしきシニカルな面も思わせる、文句なしの名作です。

が、問題は漫画化したのが画太郎氏であること。
少年マンガに馴染みのある人であれば、この部分はむしろ説明不要でしょうが、なんせ現在の漫画界でもナンセンスさ加減に置いては屈指の作者です。
この時点で、原作どおりになるわけがありません。
わざわざ原作という部分に「」をつけた理由もそこにあります。
実際、以前の作品である「罪と罰」なんかは原型をとどめてませんでしたからね(苦笑)。

 

期待を裏切らず、本作はまさに画太郎氏特有の技法を駆使して描かれており、原作の名作感は木っ端みじん。
とはいえ、この作者にしては、原作の流れ「だけ」は維持しており、
語り部である主人公が宇宙人である「王子」やヘンテコな大人たちと出会っていく展開はそのままです。
ストーリー構成も、バトルアクションになってしまっているとはいえ(連載中の現時点では)カッチリしており、意外に感じるほど。
その点では、思いつきの一発ネタをアレンジなしでぶちまけたかのような(褒め言葉)これまでの彼の「原作」ものとはかなり趣が異なります。

が、唯一変わらないのか、そのあんまりな破天荒っぷり…というかブチ切れ具合。
なまじ原作が原作なだけになおさらなんですが、あんまりなアレンジっぷりにはただただ唖然とするしかありません。
しかも、前述のようにストーリーは今回は割と成立しているので、巻き込む力もあります。

その結果どうなるかというと、知らず知らずのうちに自分の悩みなんてアホくさくなってくるんですよ、読んでると。
それも、この手の話でよくある、よくある自分の悩みが矮小に見えてくるとか、そういう事ではありません。
あんまりな展開に、力づくでブレインウォッシュされる感じ。
読書体験として考えても、かなり新しいです。

濃密な絵柄とイメージで避けていた方も多いとは思いますが、ドツボにはまったと思ったときには騙されたと思って読んでみていただきたい。
下手にトリッキーな手を遣おうとするよりは、はるかにお手軽に気分が変わると思いますよ。

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