別記事でも触れましたが、お色気系の作家の中でもかつてと比べてとりわけ大きく変化した一人が、佐野タカシ氏です。
全体を覆うテイストがかつてと比べて別物と言っていいほど濃厚なものになっており、かつて読み込んだことのある方ほど驚かされると思います。
逆に、近年ファンになったという方にとっては、現在のねっとり具合の方が当たり前のようで、むしろ愛すべきマンネリといった感覚らしいですが。
ファンの目線にも世代って影響あるんだなあ、とつくづく感じます。

その中でも、特にその変化ぶりがはっきり現れた連作集を今回はご紹介します。
『夜のおとぎ話』(少年画報社)です。
奇しくも出世作と同じレーベルっていうのがまた、時間のたったことを感じさせますね。

少年画報社から出ている作風変化後の佐野氏の諸作品は、編集部の方針なのか、その変化が他誌掲載のもの以上に露骨に出たものが多い印象があります。
この連作集などはその最たるもの。
美熟女ものなので、少し前に出た緊縛系連作集に比べるとコンセプト自体の尖り具合は少なくなっていますが、どっちが好きかはもう好みでしょうね。
基本、どちらも作風変化後のものなので。

本作で特徴的なのが、描写のえぐさはもちろんとして、その雰囲気です。
色気主体の漫画作品というのは成人向けにせよ一般向けにせよ、多くが漫画特有の軽いノリを持っているものですが、この作品はそういう軽さが薄い。
その代わりに、はっきり感じられるのが、官能小説の空気感です。
この漫画は、官能小説特有の妙に重苦しい、あの味わいが強いのです。

それは、ただ美熟女といういかにも小説的な設定だけによるものでは、多分ありません。
それはそれで大きいのですが、どちらかというと、描写の力が大きい。
表情の付け方であったり、セリフ回しであったりといった割と目立つ部分から、それぞれの作品での舞台道具といった細かい所まで、徹底的に官能小説の遺伝子がしみこんでいる感じ。
ただの文字の羅列から紙面に汁がしみだしてきそうな、官能小説特有の重苦しくインモラルな性の雰囲気を、全編が濃厚に発しています。

それだけに、一般作品ではあるものの、かなり読み手を選ぶ作品ではあります。
かつての佐野氏の作品の軽快なノリが好きだった方には、おそらくまったく合わないでしょう。
また、一般紙作品だけに、描写の強烈さだけを求めて読む作品でもありません。
直接描写もあるとはいえ、あくまでも、じっとりした雰囲気こそが本作の色気の肝なのですから。

だから、どちらかというと、これまで漫画にこういう色気を求めたことのない、むしろ普段は官能小説しか読まないくらいの、徹底した小説愛好者の方にこそぜひ目を通してみていただきたいです。
漫画にもこういうものがあるのか、と、新鮮な驚きとともに読んでもらえることと思います。

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