登場人物がただただかわいい「だけ」の作品、というのがあります。
ストーリー展開などは二の次、とにかくキャラのかわいさだけで押し通すタイプの作品。
いわゆるヤマなし、オチなしの典型のような作品群です。

こういう書き方だとあんまりいい印象じゃないですが、この手の作品というのは最初っから読んでニコニコすること、それ自体が目的という部分があって、言ってみれば機能性食品みたいなもんなんですよね。
サプリっぽく書くなら「効能:笑顔になれます」みたいな。
だから、盛り上がりがないとか言ったところで、まるで意味がない。むしろ、変な盛り上がりはこういう作品には邪魔なのです。

 

そんな作品群の中でも、特にそれに特化して最近人気を集めているのが、「スライムライフ」(メガサワラ/集英社ジャンププラス)です。
タイトルからわかるようにファンタジー世界を舞台にしたものですが、この「スライムライフ」には血沸き肉躍る戦いも、魔王の陰謀も何もありません。
ひたすらファンタジー世界の日常生活を、斜に構えることなく描いたもの。
ただ、そのホンワカっぷり、ゆるゆるぶりは、笑顔になれるという意味では最強です。
モンスターを題材のメインに据えた作品で、ここまで血なまぐさい要素を排除した作品もそうないんではないでしょうか。

主人公は黒魔導士をしている、ダルル。
作中では実力のほどはわかりませんが、いかにもな黒ローブに身を包んだ、あんまり黒魔導士っぽくないかわいらしい女の子です。
絵柄的にはどことなく真島ヒロ氏描くところの女の子に近い。
魔法雑貨店(RPGでいうところの道具屋みたいなもんか?)を開くことにしたダルルは、まずは従業員を雇おうとします。

この世界には「魔物派遣」なる、職業人としてのモンスターを派遣してくれる会社らしきものが存在しています。
ドラクエでいう友好的なモンスターという奴でしょうか。
そこからめぼしいモンスターを迎え入れようとするダルルですが、いかんせんまだ開店したばかりのお店。
いわゆるレベル高めの、いかにも黒魔導士らしい、要するにかっちょいい連中はそれなりにお金もかかるようで、そこまでの余裕はありません。

仕方なく派遣会社にお任せで頼んだところ、やってきたのは言わずと知れた最低レベル帯モンスターの定番、スライムでした。
断ろうとするダルルですが、スライムのプニプニした可愛らしい姿(…というか触感)にヤられてついそのまま雇い入れてしまいます。
こうしてお店の経営者であるダルルと、ただひとりの従業員であるスライムくん、2人(1人と1匹?)っきりの暮らしがスタートするのですが…

ファンタジー作品において、スライムというモンスターはどろっどろの液体状のグロテスクな奴から可愛らしい奴まで色々な姿形で描かれていますが、本作のスライムくんは言うまでもなく後者。
ドラクエに出てくるのに近い、半固形状の、いかにもやわらかそうな感じの、アレです。
作中で好物はグミキャンデーと出てきますが、本人がまさにそんな感じ。
こちらは手足もついてますし、表情も人間の子供っぽい感じになっていますが、いずれにしても可愛らしいことには変わりありません。
ちなみに、半固形状だけに身体の形を変えることはできるので、特技はないとは言いながらも、掃除などの雑用ではなかなか使える奴です。狭い隙間もバッチリ。

ですが、そんな仕様はさておき、雇い主であるダルルはというと、そのプニプニした触感にすっかりメロメロです。
なんとか触りたい、むにーってしたいということしか頭にありません。
でも、そんなことを直接スライム本人にいうのはプライドが許さない。
そんなダルルが、いかにスライムくんをプニプニするかだけを考え、策謀を巡らすのが、本作の内容です。

…というか、マジでそれだけ。

本作には経営ものならではの要素も、ファンタジー世界ならではの展開も皆無です。
スライムの可愛さにすっかり魅せられたダルルが、スライムをひたすら愛でる。それ以外の要素は、スッパリと切り捨てられています。
ストーリーらしきものもあってないようなものだし、日常系として割り切ってみても起伏もない。
「愛でるだけ」ですから、各話もパターンはおおむね決まっていてワンパターンと言ってもいいほど。

ただ、この思い切りの良さこそが本作の真骨頂です。

余計な要素がないだけに、作品世界は文字通り平和一色。大体、平和な生活なんて退屈なものですしね。
そして、そういう平和な世界だからこそ、ダルルとスライムの、言っていれば単なるいちゃつきあいがひたすらかわいらしい。
黒魔導士であるダルルだけに表情はかなり性悪っぽいところもあるんですが、それでさえヘンな裏を感じさせません。

そうした生活が延々と続く変わり映えのなさこそが本作「スライムライフ」の魅力を生み出しています。
仮に話の起伏とかを考えてしまっていたら、このホンワカした雰囲気やノリは出せなかったでしょう。
まさに読者が笑顔になることだけを目的とした、言ってみれば「機能性漫画」とでも言うべき作品なのです。

かわいいは正義とよく言いますが、ここまでそれを地で言っている漫画もそうそうないでしょう。
それだけに、落ち込んでるときに読むと効果は絶大。
漫画にこういう言い方をするのもヘンですが、まるで妙薬のような使い方ができる一本です。

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